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岡山大学大学院 溝手 雄
(平成24年度 受賞者)
昨年12月のNatureに、こんなタイトルのReviewが掲載されました。正しくイディオムに沿って訳するなら「がん免疫療法は充分に発達する」といったところでしょうか。しかしここは敢えて意訳(誤訳?)して、「がん免疫療法の時代が来る!」と言いたいものです。
がん免疫療法は1891年にWilliam ColeyがColey’s toxinsを使用して以来、少しずつ進歩してきました。ここ数年のがん免疫療法(特に抗体療法)の発展は目覚ましく、今年の5月には日本発の抗体医薬である抗CCR4抗体・ポテリジオが厚労省に認可され、6月にはNew England Journal of Medicineに抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を用いた臨床試験の成果が報告されて大きな話題となっています。
しかし、免疫療法は決して『魔法の弾丸』ではないのです。もちろんこれは免疫療法に限った話ではないのですが、残念ながら全ての症例に効果があるわけではありません。それなればこそ、正しく効果を判定する必要があります。がんに直接作用する抗がん剤に対し、免疫療法は生体の持つ免疫力を高めることで間接的にがんを攻撃します。そのため、効果が現れるまでに時間を必要とし、従来の評価法だけでは正確に効果を判定できません。
私の研究テーマは「免疫増強モニタリングによるがんワクチン評価法の開発」です。私たちは、がんに特異的に発現しているタンパク(がん抗原)を、タンパクそのもの、あるいはその断片であるペプチドとして投与することでがん特異的T細胞免疫応答を誘起、賦活化する、がんワクチン療法の臨床試験を行ってきました。これまでに施行された臨床試験や、これから川崎医科大学等で施行する臨床試験を仔細に解析し、T細胞多機能性を評価することで免疫評価法を確立し、より効果的ながんワクチン療法の開発に繋がることを目指して研究に励んでいます。ようやく訪れつつある時代に乗り遅れないように。
最後になりましたが、この度は平成24年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜りまして光栄に存じます。この場をお借りしまして、関係の方々に深く感謝申し上げます。
[平成24年9月6日掲載]