受賞者寄稿文

川崎医科大学　臼居　優
（令和6年度　受賞者）

魚類の心臓における酸素供給システムの解明
～虚血性心疾患治療への応用に向けた取り組み～

　この度は令和６年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。椿原彰夫理事長をはじめとして、審査委員会の先生方、ご関係の皆様に厚く御礼申し上げます。
　国内人口動態調査によると、我が国では毎年２０万人以上の方が心疾患により死亡しております。これはがんに次いで２番目に多く、全死因の約１５％を占めます。このことから、心疾患の罹患率の低減は喫緊の課題であると言えます。そのなかでも虚血性心疾患は、冠血管の狭窄や閉塞を主因とした血流の減少に伴う心筋の酸素不足により、胸痛発作や圧迫感などの症状が顕れ、突然死を引き起こす不整脈や心筋梗塞などの入り口となる疾患です。ただし、虚血発作時の 全身性の酸素投与療法は重篤な副作用を示すため、緊急性が高い場合を除き、推奨されていません。このような背景から、心臓特異的に酸素を補填する方法を確立し、有害事象を回避しつつ 虚血発作を抑制する効果的な治療法の開発に取り組んでいます。
　赤血球は細胞質が酸性に傾くと、酸素親和性が低下します。これは、ヘモグロビンが保持している酸素を強制的に放出し、組織に酸素を積極的に供給していることを意味します。この特性の原型は約４億年前に獲得され、気候変動による地球上の酸素濃度の低下を耐え抜いた要因の一つではないかと考えられています。この特性を心臓で活用し、心臓内腔だけで効果的に酸素を抽出するシステムを構築することにより、心臓を冠血管からの栄養に依存しない循環器へと作り変えることができるのではないかと推測しております。今後は、心疾患モデルのゼブラフィッシュやマウスに対して、心臓特異的に赤血球の酸性化による酸素供給の効果について検証し、医療応用への道を切り拓きたいと考えております。
　末筆ながら、研究機会を与えてくださいました公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様方に改めて厚く御礼を申し上げますとともに、貴財団の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和7年4月1日掲載］