受賞者寄稿文

川崎医科大学　清水　真次朗
（令和2年度　受賞者）

尿路生殖器領域における難治性炎症性疾患に対する新規治療薬の究明
－慢性前立腺炎に対するPDE5阻害薬を用いた効果検証－

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会から教育研究助成を賜り、関係者および選考委員の皆様方に心より感謝申し上げます。
　尿路生殖器領域における代表的な難治性炎症性疾患として慢性前立腺炎が広く知られておりますが、これまで有効性を示す治療が確立されておりません。また、ヒトを対象とした臨床研究で慢性前立腺炎の病態解析や創薬研究を行うことには多くの制限があるため、医学研究の進展が望めていない状態でした。まず、本研究では、これまでの報告から慢性前立腺炎の病態には自己免疫が強く関与していることに着目して、自己免疫誘導慢性前立腺炎モデルマウスを作成いたしました。続いて、近年、Rho-kinase阻害による炎症抑制作用が報告されているphosphodiesterase(PDE)5阻害薬を用いて自己免疫誘導慢性前立腺炎モデルマウスに対する炎症抑制作用を検証いたしました。
　本研究では、実験動物C57BL/6Jマウスに対して、ラット前立腺組織を異種抗原として皮下投与することで、自己免疫誘導慢性前立腺炎モデルマウスを作成いたしました。作成したモデルマウスにおける全身臓器の炎症性変化をプロテオーム解析により検証することで、ヒトにおける慢性前立腺炎の病態と同様の炎症性変化が認められ、自己免疫誘導慢性前立腺炎モデルマウスの妥当性が示されました。また、自己免疫誘導慢性前立腺炎モデルマウスに対してPDE5阻害薬を投与すると、前立腺内における炎症性変化が抑制されることも示されました。本研究結果から、尿路生殖器領域における難治性炎症性疾患である慢性前立腺炎に対してPDE5阻害薬を投与することは、慢性前立腺炎の発症抑制に繋がる可能性が示唆されました。PDE5阻害薬は、慢性前立腺炎に対する新たな予防薬となる可能性があると推測されます。今後、本研究成果をもとに臨床応用に向けた進展研究を行う予定としております。
　本研究は、川崎医科大学泌尿器科学 永井　敦教授、大平　伸講師、東京電機大学大学院生命理工学系分子発生生物学 刀祢重信教授、ならびに川崎医科大学泌尿器科学教室のご支援の賜物であり、この場をお借りして感謝の意を表します。最後になりましたが、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の関係者の皆様方には、この場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに、益々の発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和3年4月1日掲載］