受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　平田 啓太
（令和3年度　受賞者）

精巣虚血再灌流障害における炎症性変化に着目した病態解析および病態関連因子阻害薬を用いた創薬研究、妊孕性の確認

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会から教育研究助成を賜り、関係者および選考委員の皆様方に心より感謝申し上げます。
　精巣捻転は、泌尿器領域における緊急疾患の１つであり、捻転に伴う精巣虚血は手術による速やかな血流改善が求められます。適切な血流改善が得られた場合でも、一部の症例では造精機能障害に至ることがあり、健側精巣が正常であれば妊孕能は保たれるとされていますが、精巣虚血再灌流後の健側精巣の組織障害および造精機能障害を検討した報告が散見されます。健側精巣の障害の機序については酸化ストレスに着目した研究が多く報告されていますが、その病態は明確にされていません。
　本研究では患側精巣での炎症性変化が酸化ストレスを惹起し、健側精巣に対し影響を与えている可能性があると研究仮説を立て、炎症性変化に着目して精巣虚血再灌流による造精機能障害の病態解析を行い、精巣組織及び造精機能保護効果を検討いたしました。
　結果、精液検査では再還流1週目から精子濃度と運動率の低下を認めました。網羅的タンパク定量検査および免疫組織学的解析を用いた炎症解析では、再還流1週目からIL-2, IL-3, IL-17A, IL-23, CCL2, CCL5, CXCL1, CX3CL1の上昇を認め、右側（健側）精巣においても左側（患側）精巣に追随して同様の変化を認めました。これらの変化に続いて、免疫組織学的解析により両側精巣における酸化ストレス（ROS）の過剰産生および細胞死の増加を確認しました。
　これらの変化は患側精巣だけでなく、健側精巣においても同様に認められることで、造精機能障害に至ると推測され、炎症性変化を抑制することで妊孕能を維持できる可能性があると考えられます。今後、実際に炎症を抑制し繁殖が可能であるか、研究を継続していきたいと考えております。
　本研究は、川崎医科大学泌尿器科学 永井敦教授、川崎医科大学泌尿器科学 大平伸講師、東京電機大学大学院生命理工学系分子発生生物学 刀祢重信教授、ならびに川崎医科大学泌尿器科学教室のご支援の賜物であり、この場をお借りして感謝の意を表します。最後になりましたが、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の関係者の皆様方には、この場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに、益々の発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和4年4月1日掲載］