受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　藤田 俊一
（平成29年度　受賞者）

新規骨代謝調節因子Tankyraseの骨代謝における役割の解明

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方および関係者の皆様に深謝致します。
　私の研究対象としたTankyraseはポリ(ADP-リボシル)化を介して標的蛋白の分解を誘導する酵素蛋白で、Tankyrase阻害剤は抗癌剤や抗線維化薬としての臨床応用が期待されています。近年、Tankyraseは細胞内アダプター蛋白であるSH3BP2(SH3 domain binding protein 2)の分解を誘導することが報告されました。これまで我々は、SH3BP2が破骨細胞調節因子であることを報告してきました。TankyraseとSH3BP2の関与は報告されましたが、Tankyraseの骨代謝への作用は明らかとなっていないため、今回の研究ではTankyrase阻害剤を用いてin vitroおよびin vivoの解析を行いました。
　本研究の成果として、①マウス骨髄マクロファージにおいて、Tankyraseの阻害によりSH3BP2の発現亢進とSyk・NFATc1の活性化を介して破骨細胞分化が亢進すること、②マウス骨芽細胞において、Tankyraseの阻害によりABL・TAZ・Runx2の活性化を介して骨芽細胞分化が亢進すること、③マウスへのTankyrase阻害剤投与にて破骨細胞数増加を介して骨量が減少することを明らかにしました。Tankyraseは破骨細胞分化および骨芽細胞分化を調節する新規の骨代謝調節因子と考えられます。また、Tankyrase阻害剤が抗癌剤や抗線維化薬として臨床応用される際には潜在的な副作用として骨粗鬆症に注意が必要と考えられました。
　(Fujita S, et al. Pharmacological inhibition of tankyrase induces bone loss in mice by increasing osteoclastogenesis. Bone. 18(106):156-166. 2017)。
　Tankyraseは、生理的状態・炎症病態での発現量の変化やその制御機構などについては解明されておらず、まだまだ不明な点が多い酵素蛋白です。本研究では、Tankyraseの阻害により骨量減少をきたすことを初めて報告しました。今後、Tankyraseの活性を調節することによる骨破壊性疾患への臨床応用を検討したいと思います。

［平成31年2月4日掲載］