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川崎医科大学 三浦 未知
(令和3年度 受賞者)
この度は令和3年度教育研究助成事業に採択していただき、誠にありがとうございます。数年ぶりに日本に戻り初めて受けた助成金で、非常に有難く、感謝しております。
HTLV-1と呼ばれるヒトT細胞白血病ウイルス1型は、今からおよそ40年ほど前に、ヒトの病気との関連が確認された最初のレトロウイルスです。感染すると数十年という長い無症候の年月を経た後に、成人T細胞白血病 (ATL) や、HTLV-1関連脊髄症 (HAM) などを引き起こします。これらの病気は細胞に潜伏感染するHTLV-1のウイルス遺伝子によって引き起こされると考えられますが、潜伏感染という名の通り、感染細胞のなかでウイルス遺伝子が常に発現しているわけではないことも分かっています。私はin vivoにおけるHTLV-1の遺伝子発現とそのインパクトをうまいこと定量できなければ、HTLV-1感染と病態についての我々の現在の理解はなかなか前には進まないだろうと考えています。
ウイルス遺伝子の発現は従来、末梢血からリンパ球を集めて定量PCRを行うことにより調べられていました。しかしながら感染細胞は一つ一つがまったく同じわけではありませんので、ある感染細胞ではウイルス遺伝子が発現していて、また別の細胞ではウイルス遺伝子が発現していないということが十分あり得ます。現在はシークエンシングによるシングルセル解析が普及し、末梢血における一つ一つの細胞においてウイルス遺伝子の発現を調べ、素晴らしい成果が報告されつつあります。しかしながら現在のシングルセル解析は細胞をばらばらにしなければなりませんので、リンパ組織などにおけるウイルス遺伝子発現のin situ解析まで行うには少し不向きです。これに対して、組織を構成する細胞の一つ一つで1分子のmRNAを蛍光標識して検出し、定量しようとするのが空間的シングルセル・トランスクリプトーム解析というものです。
米国のいくつかの企業はこの複雑な解析を自動的に行ってくれる装置を開発しつつあり、私はこれから次の数年間で世界に普及していくだろうと予想しています。私はこの手法を自前で実現することで、HTLV-1のような病原体の遺伝子も含め自らの思いの通り解析することを目指しています。今回頂いた助成金により、この解析の基盤となる技術の確立をサポートしていただきました。再び重ねて御礼申し上げます。
[令和4年4月1日掲載]