受賞者寄稿文

川崎医科大学附属病院　中村 克哉
（令和4年度　受賞者）

高齢女性患者における円背姿勢が摂食嚥下機能に及ぼす影響

　この度は、令和4年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方ならびにご関係の方々に深く感謝を申し上げます。
　私は、川崎医科大学附属病院のリハビリテーションセンターに入職し、言語聴覚士として臨床および研究に励んで参りました。様々な疾患を原因とする摂食嚥下障害の患者に関わる中で、「摂食嚥下と姿勢」というテーマについて関心を持つようになりました。摂食嚥下と姿勢に対する適切な介入を行うことで摂食場面の誤嚥を即座に回避することができれば、摂食嚥下リハビリテーションの質の向上につながると考えています。
　円背は背中が異常に曲がった姿勢を指し、加齢に伴って高齢者に多く見受けられます。特に女性は男性に比べて急速に進行することが知られています。過度の円背は死亡率の増加や肺機能の低下、生活の質の低下を含むいくつかの健康状態と関連することが報告されています。円背が大きくなるにつれて、頭部は前方位となり、頸部は伸展する傾向があります。この姿勢は嚥下に不利な姿勢であると考えられ、食べ物や唾液の誤嚥につながる可能性があります。しかしながら、円背と摂食嚥下機能の関連性については詳細な検証が行われていません。
　本研究では、摂食嚥下障害のない高齢女性患者を対象に、安楽座位（リラックスした座位）と直立座位（背筋を伸ばした座位）の2姿勢で姿勢計測（円背指数や頭頸部角度）および摂食嚥下機能評価（嚥下速度や舌圧）を実施し、比較を行いました。嚥下速度は、摂食嚥下の咽頭期を評価する指標の一つであり、国際的に用いられている100ml水飲みテストによって算出されました。本研究の結果、安楽座位は直立座位と比較して、円背および頭部前方位が大きく、嚥下速度が有意に低下することが示されました。この結果は、座位姿勢の違いが嚥下の咽頭期に影響することを示唆するものであり、重要な知見であると考えます。本研究の結果は、論文投稿を目指して論文執筆中です。今後は、研究対象者を増やして「摂食嚥下と姿勢」の関連性についてさらなる検証をしていきたいと考えています。
　最後に、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様に厚く御礼を申し上げます。引き続き臨床現場に還元できるような研究を続けていけるよる精進して参ります。

［令和5年4月1日掲載］