受賞者寄稿文

川崎医科大学　石塚 佑太
（令和4年度　受賞者）

網膜色素変性症の新規モデルマウスとなり得るプロサポシン過剰発現マウスの解析

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉振興会から令和4年度教育研究助成を賜り、誠にありがとうございます。選考委員会の先生方および関係者の皆様に深謝致します。
　我々は現在、網膜色素変性症の病態解明を目指し、網膜色素変性症の新規モデルマウスとなり得るヒトプロサポシンを過剰発現するマウスの解析を行っています。網膜色素変性症は本邦における失明の第二位の指定難病でありながら根本的な治療法はないことから、発生機序の解明と早期治療法の確立が望まれています。プロサポシンはリソソームと呼ばれる細胞内の「異物・不要物処理場」で働く、サポシンの前駆体タンパク質です。これまでの研究からプロサポシンにはサポシンの前駆体としてだけでなく独自の機能があることが推察されていることから、我々はヒトプロサポシンを全身性に過剰発現する遺伝子改変マウスを作製し、その表現型を解析してきました。
　網膜色素変性症様の症状を呈する他のモデルマウスにおいてプロサポシンの発現量の増加が示唆されていることから、我々の持つヒトプロサポシン過剰発現マウスも同様の症状を呈することが予想されたため、野生型、ヘテロ接合体およびホモ接合体マウスから生後経時的に眼球を摘出し網膜病変を解析しました。予想通り、ホモ接合体マウスの網膜では生後6週齢までに網膜の視細胞がほぼ完全に脱落し、失明すること、またヘテロ接合体の網膜病変はホモ接合体と比べて軽いことが明らかとなりました。これらの結果は、プロサポシンの発現量と視細胞脱落が相関し、ヒトプロサポシン過剰発現マウスが網膜色素変性症の新規モデルマウスとして非常に有用なツールであることを示しています。一方、眼球および各遺伝子型マウスから作製したマウス胎児繊維芽細胞を用いた生化学的な実験からはオートファジーおよびリソソーム機能の亢進が見られました。この結果は、オートファジー・リソソーム機能の異常亢進が網膜色素変性症における網膜病変の原因の一つであることを示唆しています。今後は、本マウスのより詳細な解析を進めることで網膜色素変性症の発生機序の解明および治療法の確立へと繋げていきたいと考えています。
　最後になりますが、昨年度は留学から帰国した直後ということもあり、なかなか研究予算の獲得が難しい中賜りました本研究助成により研究を発展させることができましたこと改めて御礼申し上げますとともに、貴財団の益々のご発展を祈念しております。

［令和5年4月1日掲載］