受賞者寄稿文

川崎医科大学附属病院　角　直樹
（令和5年度　受賞者）

自発運動が過敏性腸症候群・機能性便秘症の腹部症状に及ぼす影響について
－便秘運動プログラムの開発を目指して－

　この度は令和5年度公益財団法人 川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜り、選考委員会の方々および関係者の皆様には深く感謝致します。
　私は、機能性消化管障害（Functional gastrointestinal disorders: FGID）の患者における運動・身体活動の関係について研究を行ってきました。FGIDに含まれる過敏性腸症候群（Irritable bowel syndrome: IBS）や機能性便秘症（Functional constipation: FC）は便通異常が持続するにもかかわらず、器質的疾患を伴わない疾患です。病気としての認識が低く、医療機関への受診率は高くありませんが、生活の質（QOL）の低下をきたすことが問題であり、近年増加傾向にあります。身体活動量の増加等のライフスタイルの変更がIBS、FCの初期治療法として推奨されていますが、運動の方法については確立されておらず、健診受診者を対象とした自発運動がIBSの消化器症状の改善に関連する報告はありません。そこで我々は、「IBSやFCの患者は身体活動を行っている方が少なく、運動療法を行うことで腹部症状（便秘や腹痛、腹部膨満感等）は改善する」という仮説を立てました。その検証のため、我々は川崎医科医療福祉大学健康体育学科の先生方や運動指導士のご協力のもと便秘運動プログラムを作成しました。川崎医科大学附属病院健康診断センターでIBSやFCに該当する受診者を対象として、便秘運動プログラムを介入する群（運動群）と介入しない群（安静群）に分けて身体活動がIBSやFCの消化器症状（便秘や腹痛、腹部膨満感等）やQOLに及ぼす影響について調査を行いました。また、Image Jで評価した腹部単純X線写真による腸管内のガス量の変化についても検討を行いました。結果は、健診受診者におけるIBSの有無と活動的な運動の有無については有意な関連があり、運動を介入すること（運動群）で腹部症状が改善することがわかりました。一方で運動をしない群（安静群）に関しては消化器症状に変化は認めず、腸管内ガス量については運動群と安静群ともに介入前後で差はみられませんでした。今回の研究では運動の実施期間が2～4週間と短期間であったため、今後は長期間の影響についての調査や身体活動の前後における実際の腸管蠕動の変化をモニタリングするなどさらなる検討を行っていく予定です。
　最後に研究のお力添えをいただいたこと、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様方に厚く御礼を申し上げます。今後とも益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］