受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　高崎 宏靖
（令和3年度　受賞者）

尿路生殖器領域における難治性炎症性疾患に対する新規治療薬の究明
－前立腺炎に対するIDO阻害による炎症抑制効果の検証－

　この度は公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会研究助成を賜わり誠にありがとうございました。選考委員の方々および関係者の皆様には深く感謝致します。
　Indoleamine 2,3‐dioxygenase（IDO）は、必須アミノ酸の１つであるトリプトファンの代表的代謝経路であるキヌレニン経路の律速酵素であり、感染症などによる免疫系が活性化される病態において強く関与していることが報告されています。全身感染症の代表疾患である敗血症モデル動物において、IDO阻害による炎症抑制効果が報告されていますが、局所感染症に対するIDO阻害の有効性は明確にされていません。また、IDOは前立腺内において高く発現し、他臓器からの誘導を受けずに恒常的にIDOを発現することが報告されています。我々は、前立腺における局所感染である急性前立腺炎に対してIDO阻害は炎症を抑制する効果があると推測し、急性前立腺炎におけるIDOの役割について検討致しました。
　本研究ではIDOノックアウトマウス（Ido-/-）を用いて急性前立腺炎モデルを作成し、急性前立腺炎におけるIDO阻害の慢性前立腺炎への移行抑制効果について検討を行いました。Ido-/-は野生株マウス（Ido+/+）と比較して前立腺組織内における炎症細胞浸潤および組織破壊を抑制し、炎症促進性サイトカイン（IL-1α, IL-6）およびケモカイン（CCL3, CXCL1）を抑制し、炎症抑制性サイトカイン（IL-4, IL-10）を促進することが判明致しました。IDO阻害薬（1-methyltryptophan: 1-MT）を用いた検討においても、1-MT投与群（1-MT(+)）は1-MT非投与群（1-MT(-)）と比較して前立腺組織内における炎症細胞浸潤および組織破壊を抑制し、炎症促進性サイトカインおよびケモカインを抑制し、炎症抑制性サイトカインを促進することを確認し、本研究が急性前立腺炎における新規治療薬となる可能性が示唆されました。
　本研究成果を2020年度西日本泌尿器科学会総会ヤングウロロジストリサーチコンテストで発表させて頂きました。本研究は川崎医科大学泌尿器科学教室 永井敦教授、泌尿器科学教室 大平伸講師、東京電機大学大学院 生命理工学系分子発生生物学 刀祢重信教授ならびに川崎医科大学泌尿器科学教室のご支援の賜物であり、この場をお借りして感謝の意を表します。今後、本研究の臨床応用に向けた検討を行っていきたいと考えております。

［令和4年4月1日掲載］