受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　石丸 浩靖
（令和3年度　受賞者）

発汗減少に起因する皮膚の角層水分量低下がアレルギー反応に与える影響に関する研究

　この度は、令和3年度 公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜り、選考委員会の先生方ならびに関係者の皆様方に深く御礼申し上げます。
　私は2021年4月より川崎医科大学薬理学教室の大学院生として在学し、本研究テーマでもある「発汗とアレルギー反応の関係性に関する研究」に取り組んでいます。
　表皮の最外層にある角層は皮膚バリアとして外部から抗原（アレルゲン・ハプテン）の侵入を防御する役割を担っています。角層の皮膚バリア機能は主に角層水分量（SSH）によって維持されており、アトピー性皮膚炎（AD）患者ではSSHが低く、皮膚バリア機能が低下していることが知られています。近年、汗はSSHの維持に重要な役割を有しており、発汗障害がADなどのアレルギー性皮膚炎の病態に関与している可能性が報告されています。
　本研究では、発汗抑制がADを含むアレルギー性皮膚炎の発症に関与するかを明らかにすることを目的としました。すなわち、皮膚バリア機能における発汗の重要性を評価するため、マウスにおいて汗腺が存在する足底部の発汗がアレルギー性皮膚炎に与える影響について検討しました。抗コリン薬を用いた発汗抑制処置によって足底の角層水分量を低下させた動物に対して、足底部よりハプテンを用いて惹起しました。その結果、発汗抑制していない対照群と比較して発汗抑制群において、腫脹の増強及びアレルギー反応に関連する炎症性サイトカインのmRNA発現量が増加していました。さらに、皮膚中のハプテン曝露量の増加も確認されました。
　以上のことから、発汗及びSSHが減少した皮膚において、アレルギー反応が増強することが確認され、発汗による角層水分量の維持が、皮膚からのハプテン曝露に対する防御に関与していることが示唆されました。皮膚乾燥による抗原曝露の増加は、ADや手湿疹といったアレルギー性疾患の誘発又は増悪に関与する可能性があることから、適切な発汗は皮膚にとって有益であることが明らかとなりました。今後は物性の異なるハプテンやタンパク抗原についても同様に評価を進めていきたいと考えています。

［令和4年4月1日掲載］