受賞者寄稿文

岡山大学　武田 達明
（令和5年度　受賞者）

抗がん剤耐性の克服を目指して

　この度は、令和5年度 公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜り、選考委員会の先生方および関係者の皆様方に深く感謝申し上げます。
　私はこれまで、抗がん剤の耐性化に関する研究に携わってきました。抗がん剤はがん細胞の増殖を抑えることで、がん患者の生存期間を延長させます。しかしながら、抗がん剤による治療を継続していくと次第にその効果が薄れ、がん細胞が増殖してきてしまうことが問題となっています。これを抗がん剤への耐性化といい、耐性化すると治療の変更が余儀なくされ、次第に有効な治療法がなくなってしまいます。したがって、耐性化の原因を明らかにし、抗がん剤の効果を長期間維持させる治療法の開発が必要です。
　乳がんを代表とする一部のがんでは、細胞増殖などに関わる受容体であるHER2が過剰発現していることが知られています。このようながんでは、HER2を標的として狙い撃つ分子標的治療薬というカテゴリの抗がん剤が用いられます。我々のこれまでの研究で、HER2を標的とした分子標的治療薬の耐性化に、がん原遺伝子として知られているYES1遺伝子の過剰発現が関与していることを明らかにしています。しかしながら、YES1遺伝子の発現が耐性を惹起する分子メカニズムの解明には至っていません。分子メカニズムを明らかにすることで、耐性を克服するための治療標的の発見が期待できます。
　今回、貴財団からの助成により実施した研究により、YES1遺伝子の過剰発現はHippoシグナル伝達経路に影響を与え、耐性を惹起している可能性が見出されました。Hippoシグナル伝達経路はがんの悪性化や進展に関わっており、治療標的としても近年注目されています。今後、耐性化メカニズムのより詳細な解析や有効な治療方法の探索を進めていく予定です。抗がん剤の耐性克服による治療効果の改善を通じ、がん患者の予後の向上に貢献できるよう、今後も研究を進めていく所存です。
　末筆ではございますが、これらの成果を得る機会を与えてくださいました貴財団の関係者の皆様方に、再度厚く御礼申し上げるとともに、ますますの発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］