受賞者寄稿文

川崎医科大学　和田　雄治
（令和2年度　受賞者）

ヒトT細胞白血病ウイルス1型関連疾患の克服を目指して

　この度は公益財団法人川崎医学・福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方及び関係者の皆様方に深く感謝申し上げます。
　ヒトT細胞白血病ウイルス１型（Human T-cell leukemia virus type 1: HTLV-1）はヒトのリンパ球に感染し、成人T細胞白血病・リンパ腫（ATL）等のHTLV-1関連疾患を引き起こすRNA腫瘍ウイルスです。現在、日本国内に約80万人のHTLV-1感染者が存在し、毎年約1,000人が新たにATLを発症すると推測されています。ATLを含むHTLV-1関連疾患の緩和・治療に向けて様々な取り組みが行われていますが、発症に至る機序が完全には解明されておらず、新たな早期診断法や治療薬の開発を困難にしています。
　HTLV-1関連疾患に対して効果的な診断・治療・予防法を開発する為には、HTLV-1がヒトの生体内でどの様に増殖するのか、なぜ感染細胞の腫瘍化を引き起こすのかを詳細に解析することが重要です。本研究では、タンパク質をコードしないが遺伝子発現制御機能を有する長鎖ノンコーディングRNA（lncRNA）に着目して、HTLV-1感染により引き起こされる細胞内の遺伝子発現変化を探索しました。その結果、複数種のlncRNAがHTLV-1感染特異的に誘導される事が示唆されました。lncRNAは他のがん関連遺伝子の発現制御に関与することが指摘されている事から、ATLの発病に何らかの役割を担っている可能性が考察されます。lncRNAがHTLV-1感染細胞の発がん機序に関与している場合、これらを創薬標的として活用し有効なATL治療法の開発に貢献できる可能性があります。
　HTLV-1感染者は近年減少傾向にありますが、その分布は東京や大阪などの大都市圏に拡散傾向にある事から、感染拡大の防止及び治療法の確立に向けた取り組みが早急に求められています。今後、本研究により得られた成果を活用し、HTLV-1関連疾患の克服、延いては医学の発展に貢献していきたいと考えております。

［令和3年4月1日掲載］