受賞者寄稿文

重井医学研究所　古家野 孝行
（平成28年度　受賞者）

細胞周期と腎臓

　このたびは、平成28年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方、ならびに関係の方々に厚く御礼申し上げます。
　一昨年の10月にイギリス留学から帰国し、重井医学研究所へやってまいりました。それまでは、酵母をモデル生物として、細胞周期や細胞骨格などをテーマに、基礎研究に従事していました。新たな職場に移るにあたり、それまでとは全く異なる研究分野－モデル動物を使った腎臓病研究－をスタートさせました。マウスも触ったことがないような状態からのスタートでしたが、本助成のおかげにより、研究をスムーズに進めることができ、深く感謝しております。
　今回助成対象となった研究課題は「急性腎不全における細胞周期チェックポイント機構を介した線維化制御の解明」です。細胞周期チェックポイントは学生時代から私が取り組んできた研究テーマの一つです。本研究では細胞周期と腎臓病の関わりについて焦点を当てています。一つの細胞が二つの細胞になる一連の過程を細胞周期と呼びますが、細胞周期には様々なイベント（細胞分裂やDNAのコピー等）があります。細胞内ではそれらのイベントが正しく行われているかどうか、特定のポイントにおいて厳密にチェックされています。その制御のことを細胞周期チェックポイントと呼びます。多くのがん細胞では、この細胞周期チェックポイントの制御機構に異常があることがわかっており、がん研究の中心課題でもあります。しかし、細胞周期チェックポイント関連分子の腎臓における機能はあまりよくわかっていません。今回の研究において、腎障害時に細胞周期遅延が誘導されることを示唆するデータを得ることができましたが、その詳細な分子メカニズムについては現在検討中です。今後もこの研究を継続、発展させることにより、腎臓と細胞周期チェックポイントとの関連について明らかにし、腎臓病の理解に少しでも貢献できればと考えております。

［平成29年12月18日掲載］