受賞者寄稿文

川崎医科大学　浅野　澄恵
（令和2年度　受賞者）

Mir223欠損はS1pr1を標的としてループス腎炎の増悪をきたす

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方および関係者の皆様に深謝致します。
　私は、2015年4月に岡山大学大学院医歯薬学総合研究科入学当初より全身性ループスエリテマトーデス（SLE）のエピジェネティクス制御の解析とそれを利用した新規治療法の開発に取り組んで参りました。約6年近い研究の末、今回の助成金のおかげで、何とか論文がアクセプトされました。
　スフィンゴ脂質代謝産物であるスフィンゴシン1リン酸 (S1P)は血漿中に高濃度に存在し、血管内皮細胞やリンパ球の機能に重要な役割を果たすことが知られ、SLEの末梢血単核細胞ではスフィンゴシン1リン酸受容体1 (S1PR1)の発現低下が報告されており、S1P-S1PR1シグナルの病態への関与が考えられていました。そこで我々はSLEモデルMRL/lprマウスの脾臓CD4+T細胞の網羅的エピゲノムライブラリーを作成し解析を行い、その結果、S1pr1の発現低下とともに、その遺伝子を標的とするmicro RNA 223-3p (Mir223)の発現亢進を見いだしました。
　本研究では、Mir223を介したS1pr1発現制御による病態関与を解明するため、Mir223欠損MRL/lprマウス(Mir223-/-Faslpr/lpr)を作成し、疾患活動性の変化が得られるか表現型の差異を解析しました。予想に反し、Mir223-/-Faslpr/lprでは, Mir223+/+Faslpr/lprに比較し、脾臓S1PR1+CD4+T細胞が有意に増加し、その糸球体への浸潤も有意に認められ、尿蛋白および糸球体スコアの増悪傾向も認めました。
　この結果から、Mir223欠損は標的遺伝子であるS1pr1の発現を上昇させ、リンパ球の炎症臓器への浸潤を促進することでループス腎炎を悪化させることがわかりました。ループス腎炎においてMir223の発現亢進は代償的にループス腎炎悪化を抑制する役割を果たすことが示唆され、その補充は治療の一助になる可能性が見いだされました。
　最後になりましたが、本研究をご指導頂きました川崎医科大学リウマチ・膠原病学　守田吉孝教授と向井知之准教授、岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎内分泌代謝内科学　和田淳教授、理事長をはじめとする公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の関係各位に、厚く御礼を申し上げますとともに、ますますのご発展を祈念しております。

［令和3年4月1日掲載］