受賞者寄稿文

川崎医科大学　勝又　諒
（令和5年度　受賞者）

機能性消化管障害の脳機能解明への挑戦

　この度は、令和5年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成の対象として採択いただき誠にありがとうございました。
　機能性消化管障害(functional gastrointestinal disorders: FGIDs)は機能性ディスペプシア(functional dyspepsia: FD)や過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome: IBS)などを包括する、慢性的な消化器症状を呈する疾患群です。脳腸相関がその病態に深く関わっているとものの、FGIDs患者における脳機能評価結果に関しては未だに報告が少ないのが現状であります。
　これまでに我々は、FGIDs患者、特にFD患者は高脂肪食画像に対して苦手意識を抱いることや、FGIDs患者における食事画像閲覧時の脳活動が健常者とは異なっていることなどを研究で明らかにしてきました。しかしながら、これまでの研究においてIBS患者に特異的な脳活動の変化を捉えることが出来ておらず、今回の実験では特にIBS患者に焦点を当てた課題を作成し、脳活動の変化を検証することと致しました。具体的には、仮想現実(virtual reality: VR)空間での社会的場面(聴衆の前でのプレゼンテーション場面)を体験してもらい、機能的近赤外分光法（functional near‐infrared spectroscopy : fNIRS）を用いて脳血流を評価し、その結果を健常対象者及びFD患者と比較しました。IBS患者は精神的緊張などの心理的ストレス下で腹部症状が悪化することからこのような課題を設定しましたが、VR空間での映像の作成や実験環境の構築には様々な機器が必要でありました。今回の教育研究助成により実験を実現させることが出来たことをあらためて感謝申し上げます。
　現時点での結果として、VR空間上で体験した社会的ストレス場面における主観的ストレスは、いずれの群でも安静時と比較して増加していたこと、社会的ストレス場面経験時の腹外側前頭前野の血流は、IBS群で有意に高かったことなどを確認致しました。今後はこれらの成果を論文作成や学会発表という形で発信していきたいと考えております。
　末筆ではございますが、本研究を助成くださいました貴財団の関係者の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、貴財団のさらなる発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］