受賞者寄稿文

岡山大学　松本 准
（平成30年度　受賞者）

がん患者に対する薬物治療の個別適正化を目指して

　この度は、平成30年度 川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜り、選考委員会の先生方および関係者の皆様方に深く感謝申し上げます。
　私は、現在岡山大学薬学部と岡山大学病院の狭間で研究を行っております。一般的に大学では基礎的な検討が、病院においては臨床的な検討に目が向けられがちです。一方で、私はこれらの双方を行き来できるよう、モデル細胞・動物等を用いた基礎的な解析のみならず、実際の患者さんから摘出された組織やカルテなどから得られた情報をも解析することで、より有意義な成果が得られるよう努めております。
　近年、がんに対する薬物治療の進歩は著しく、様々な新薬が上市されております。特に注目を浴びているのは免疫チェックポイント阻害剤ですが、患者さんの中には免疫チェックポイント阻害剤の効果が認められない方や、重篤な副作用が発現する方も少なくないことが現状です。一方で、従来から用いられている分子標的薬などの薬物の使用が適切である患者さんも多く存在します。私はこれらの薬物の使用に係る選別を、患者さん個人の遺伝情報のみならず、がん組織から得られた情報をも組み合わせることで、より精密な薬物治療の提供を目指しております。特に着目している因子は薬物動態に関連する分子であり、薬物代謝酵素や薬物輸送担体の遺伝子多型・変異の有無に加えて、実際のタンパク質発現量の変化が薬物治療に及ぼす影響を解析しております。これらは患者さんの薬物代謝能の個人差を通じて薬効や副作用発現の予測に繋がり、更にはがんの薬剤耐性の予測にも繋がることを考えております。最終的には見出した因子に関する診断キットの開発等を通じて、得られた知見を実臨床へ還元することを目標としております。
　今回、貴財団からの助成により、ある薬物動態関連因子の遺伝情報およびタンパク質の発現が、腎がん患者さんの予後に関連する可能性を見出しました。これらは今後詳細なメカニズムの解明に加えて、更に発展させていく予定です。最後になりましたが、これらの成果を得る機会を与えてくださいました園尾 博司理事長を始めとする貴財団の関係者の皆様方に、この場をお借りし再度厚く御礼申し上げるとともに、貴財団のますますの発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和2年2月3日掲載］