受賞者寄稿文

川崎医科大学　赤木 貴彦
（令和4年度　受賞者）　

TRAPSという希少疾患の治療を目指して

　この度は令和４年度公益財団法人 川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜りましたこと、深く感謝申し上げます。
TNF受容体関連周期性症候群（TRAPS; TNF Receptor-Associated Periodic Syndrome）はTNF受容体をコードするTNFRSF1Aを責任遺伝子とする常染色体優性の自己炎症症候群です。症状は、発作的な発熱や関節炎、腹痛などの消化器症状、皮疹が出現することが知られていますが、発作の誘因や病態については未だ解明されておらず、定まった治療もありません。川崎医科大学リウマチ・膠原病学教室では、TRAPSの新規変異であるG87Vを発見、変異TNF受容体を過剰発現する細胞を用いて新規変異であることを証明したことからTRAPS研究が始まっています（平成30年度に辻尚子医師が本助成を受賞、Clin Exp Immunol. 2019; 198: 416-429.）。
　変異TNF受容体を過剰発現させた細胞は生理的な状態とは異なっているという問題があり、今回はTRAPSモデルマウスを作成して解析しました。このマウスを用いて、TRAPSの発作の原因の1つと考えられていたLPSやTNFで刺激を行いましたが、炎症病態を再現できず、むしろTNF刺激に対しては反応性が低下することが分かりました。さらに、その原因として、変異があるとTNF受容体が細胞表面上に発現せず、細胞内に貯留していることを見出しました。本研究で検討した刺激においては、炎症病態の再現はできませんでしたが、病態特異的な他の炎症惹起因子が存在することが示唆されました。
　TRAPSは自己炎症性疾患とされているが、その病態の詳細はいまだ不明です。TRAPSモデルマウスを用いた本研究では、ヒト患者同様の炎症病態を再現することは出来ませんでしたが、TRAPS変異がTNF受容体の挙動・機能にどのように影響するかが明らかとなりました。これらTRAPS変異マウスの解析を進めることで、TRAPSの病態解明、さらにはTNFR1を介する炎症性疾患の病態理解につながると考えます。研究結果は論文として発表しました（Front Immunol. 2022; 13: 926175.）。
　末筆ながら、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様方に厚く御礼を申し上げますとともに、益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和5年4月1日掲載］