受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　武家尾 恵美子
（令和5年度　受賞者）

新たな食道運動評価法を確立し、治療につなげる

　この度は、令和5年度公益財団法人 川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成を賜りましたこと、深く感謝申し上げます。
　私の研究内容は、経鼻内視鏡下細径超音波を用いた新たな食道運動評価法の確立とその臨床応用についてです。
　超高齢化社会において、嚥下困難感を訴える患者は多くなることが報告されています。その要因には癌などの器質的疾患、GERD以外に食道運動障害も挙げられます。食道運動障害の鑑別のために用いられる検査法として、上部消化管内視鏡検査、食道造影検査、高解像度食道内圧検査などが挙げられますが、嚥下困難感を訴える患者の中にはそれらの検査で異常がみられないことがあり、その要因として、従来の検査では評価できない食道壁伸展性障害の可能性が推察されています。そこで、経鼻内視鏡下に細径超音波プローブを用いることにより、食道壁伸展性や食道筋層の収縮運動をリアルタイムに評価する検査法の確立を目的としました。経鼻内視鏡は健診でも用いられる比較的安全かつ低侵襲な検査のため、これを確立させることは有意義であると考えます。さらに、疾患ごとの食道運動を詳細に評価・比較することで食道運動障害の病態を解明し、将来的には嚥下困難感患者に対する新たな治療法の発案につなげられればと考えております。
　現段階で、嚥下困難感を訴える患者に対し同手法で15例程度の食道運動評価を行っています。内訳は食道アカラシア6例（Cicago classification typeⅠ：2例、typeⅡ：4例）、ナットクラッカー食道1例、好酸球性食道炎1例、ジャックハンマー食道3例、esophagogastric junction outflow obstruction1例、びまん性食道痙攣症2例、食道内圧検査正常1例でした。それぞれ経鼻内視鏡下細径超音波で撮像した動画を静止画へ変換し、食道の部位ごとの経時的な壁の厚みや内腔面積を測定し、収縮率や伸展率を求めることで、食道壁運動はresting phase, distension phase, contraction phase, relaxation phaseの4つのphaseに分けることを明らかにしました。さらに、各疾患群において安静時の筋層厚や経口補水液20cc嚥下時の内腔面積の経時的変化に差異があることが分かってきました。今後も研究課題に取り組み、症例数を増やし検討を引き続き行い、研究結果を学会や論文で報告予定です。
　末筆ながら、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様方に厚く御礼申し上げますとともに、益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］