受賞者寄稿文

就実大学　渡邊 政博
（令和4年度　受賞者）

内在性DAMPs抑制分子を応用した新規炎症性疾患治療法の創製

　この度は、令和４年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会 教育研究助成の対象として採択いただき誠にありがとうございました。
　Damage-associated molecular patterns（DAMPs）とは、ストレス等に応答して細胞内から細胞外へと移行し、パターン認識受容体などを介して炎症反応を誘導する分子群の総称です。このDAMPsは、慢性炎症が関わる疾患や、感染症に伴う免疫炎症系の制御破綻等の要因として近年注目されています。
　これまでに我々は、別の研究から派生してリボソーム構成分子であるRibosomal protein L9（RPL9）が、DAMPs分子群による炎症促進を抑制することを見出しました。さらにRPL9は、通常、リボソームの一員として細胞内で機能していますが、細胞が傷害されると、細胞外へと放出されることが示されました。この分子挙動は、既にDAMPsとして報告されている分子群と共通しています。これらのことから、RPL9はDAMPsの暴走をおさえる役割を持つ分子であることが示唆されました。したがって、この分子の作用を解明することは、DAMPsを介して生じる疾患の治療法の創成につながることが期待できると考えました。そこで本研究では、RPL9によるDAMPsの抑制メカニズムの解明と疾患治療への応用可能性の探索を試みました。
　当初、RPL9がどのようにしてDAMPsの作用を抑制するかについて手がかりがなかったため、この分子を認識する抗体を作製し、抗体による作用の中和が生じるか否かを検討しようと考えました。しかしながら、抗RPL9モノクローナル抗体の作製には成功したものの、抗体による作用の阻害を明確にとらえることはできませんでした。一方で、RPL9の一部領域に相当するペプチドを用いることで、RPL9によるDAMPsの作用抑制と同様の現象が生じることを見出しました。今後この知見をもとにRPL9の作用メカニズムの解明とDAMPsにより誘導される疾患の治療法の探索を進めていきたいと考えております。
　末筆ではございますが、本研究を助成くださいました貴財団の関係者の皆様に厚く御礼申し上げるとともに、貴財団のさらなる発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和5年4月1日掲載］