受賞者寄稿文

川﨑医科大学大学院　長﨑 泰有
（令和5年度　受賞者）

小細胞肺がん細胞株におけるPD-1/PD-L1およびHIFを介した細胞増殖調整メカニズムの解明

　この度は令和5年度公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜りましたこと、深く感謝申し上げます。
　1992年に同定されたPD-1分子や2000年に同定されたPD-L1分子の阻害抗体は、これまで数多くの腫瘍系で抗腫瘍効果が証明され、標準治療として使用されています。一方で、上述の免疫チェックポイント阻害剤（以下ICI）の著効例には、一旦腫瘍の増大をきたした後に一転腫瘍が縮小し、その後長期間抗腫瘍効果が継続する、いわゆるPseudo-progressionをきたす例や、投与後急速な増大をきたすHyper progressive diseaseをきたす例が報告されており、その機序は解明されていません。これら細胞増殖制御機構の解明は、ICIの耐性機構の解明やICI奏功症例の予測につながる可能性があり、臨床上また医学研究上意義が大きいと考えています。私は川崎医科大学大学院生として、その機構解明の手掛かりとして、HIF（Hypoxia Inducible Factor; 低酸素誘導因子）を介したPD-L1の発現調整機構とICIの抗腫瘍効果の関連性について新たな知見を求め研究を行っています。HIFは細胞内が低酸素状態に陥った際に活性化される転写因子であり、腫瘍が低酸素状態へ順応するためVEGF、エリスロポエチンなど細胞増殖に関連する各種タンパクの転写を促進します。我々の先行研究でPD-1/PD-L1分子を共発現する小細胞肺がん細胞株（SBC-3）（Yamane H et al. Am J Cancer Res 2015）に抗PD-1抗体を投与し培養すると、腫瘍細胞集団内部の低酸素状態が誘導された時、ICI投与群で細胞増殖が促進することを確認しています。このことは低酸素状態においてPD-1/PD-L1分子を介した細胞間相互作用にHIF分子が関与する可能性を示唆しており、この部分について詳細な検討を継続しています。最終的には学会発表、論文投稿を行うことを目標に、今後より一層研究に邁進していく所存です。
　末筆になりましたが、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会に厚く御礼を申し上げますとともに、ますますのご発展を心より祈念しております。

［令和6年4月1日掲載］