受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　辻　尚子
（平成30年度　受賞者）

TRAPS新規遺伝子変異の炎症惹起メカニズムの解明

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方および関係者の皆様に深謝致します。
　私はリウマチ・膠原病学の大学院に所属し、自己炎症性疾患の一つであるTNF受容体関連周期性症候群(TNF receptor-associated periodic syndrome; TRAPS)の研究に取り組んでおります。TRAPSはTNFRSF1Aヘテロ接合変異を責任遺伝子とする周期性発熱症候群の1つであり、100種類以上の遺伝子変異が報告されていますが、実際に疾患関連変異と証明されている変異はT50M変異など数少ないのが現状です。
　私が後期研修医時代に診療したTRAPS患者さんより、現在までに報告のないG58V変異TNFRSF1Aが同定されました。変異を有さないTNFR1は産生の課程でゴルジ体や小胞体での修飾を受け、細胞表面に発現します。本研究では、G58V変異TNFR1は細胞表面の発現が極端に低下していることがわかりました。既に重症表現型と関連しているT50M変異と同様の挙動を示しており、G58V変異が表現型に関与している可能性が示唆されました。また、TRAPS患者由来の末梢血単球細胞が産生するミトコンドリア由来活性酸素値が、健常人と比較して亢進することが証明されました。更に、TLR2・TLR4刺激による炎症性サイトカイン(IL-8・GM-CSF)の産生が亢進することがわかりました。TRAPSは何らかの刺激によって炎症病態が誘導される周期性のある疾患であり、ミトコンドリア活性酸素産生が恒常的に亢進することが、TLR刺激による炎症性サイトカインの過剰な誘導に関与している可能性が示唆されました。
　上記の研究結果は2018年アメリカリウマチ学会で発表させて頂きました。また2019年4月に日本リウマチ学会で発表させて頂く予定としており、論文投稿に向けて準備を進めております。
　最後になりましたが、本研究をご指導頂きました川崎医科大学リウマチ・膠原病学　守田吉孝教授と向井知之准教授、実験手法等をご指導頂きました先生方、中央研究センターの方々、理事長をはじめとする公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の関係各位に、厚く御礼を申し上げますとともに、ますますのご発展を祈念しております。

［令和元年10月1日掲載］