受賞者寄稿文

川崎医科大学附属病院　山本 直子
（令和5年度　受賞者）

健診受診者の禁煙意図に関連する要因の検討～計画的行動理論を用いて～

　この度は令和５年度川崎医学・医療福祉学振興会教育研究助成にご採択いただき、誠にありがとうございました。選考委員会の先生方および関係者の皆様、ご支援、ご指導いただきました全ての皆様に感謝申し上げます。
　私は、喫煙関連疾患で苦しむ方を一人でも減らしたい思いで、禁煙推進に資する研究に挑戦しております。この度、助成を賜り大変光栄に思うと同時に、研究活動に邁進することができました。ご協力くださいました健診受診者の皆様にも深謝申し上げます。
　現在、世界では74%、我が国でも半数以上の死因が非感染性疾患（Non-Communicable Diseases:以下、NCDs）です。喫煙は、代表的なNCDsであるがん、循環器疾患、糖尿病、慢性呼吸器疾患の４つの疾病全ての危険因子であり、喫煙対策はNCDsの発症や死亡を短期間に減少させることが明らかとなっています。我が国では就労世代の男性で未だ喫煙率が高く、この世代の禁煙支援は喫緊の課題ですが、有意な効果がみられない現状があります。
　本研究は、健診受診者の禁煙意図の実態を捉え、計画的行動理論（Theory of Planned Behavior：以下、TPB）を援用して禁煙意図に関連する要因を明らかにすることを目的としました。TPBを用いた研究を定量的にレビューしたメタアナリシスでは、TPBの予測変数は行動意図に対して39%の平均説明力を示しており、TPBの枠組みにおいて禁煙意図に関連する要因が明らかになれば、禁煙意図の形成や、それを強化するための介入の示唆が得られると考えました。
　本研究はTPBを用いて禁煙意図に関連する要因を検討した本邦で初めての研究です。対象者においては禁煙意図がない、もしくは弱い者が多いことが明らかとなりました。加熱式タバコやニコチン依存度等の外部変数は禁煙意図と相関を示しましたが、階層的重回帰分析の結果、禁煙意図に関連を示したのはTPBの予測変数である態度「禁煙することは価値があるという思い」と、行動コントロール感「禁煙をコントロールできる感覚」でした。既存のマニュアルに沿った支援に限界がある中で、これらの変数の禁煙意図との関連が明らかになったことは、今後の介入方法を検討する上で意義があります。得られた知見を学会発表および論文投稿を通して広く公開し、効果的な介入につなげてゆく所存です。
　最後に、貴財団関係者の皆様に再度厚く御礼申し上げるとともに貴財団の益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］