受賞者寄稿文

川崎医科大学　外村 宗達
（令和5年度　受賞者）

中枢性嗅覚障害における嗅球神経回路の電気生理学的解析

　この度は令和５年度　川崎医学・医療福祉学振興会教育助成にご採択いただき、選考委員会の諸先生方および関係者の皆様方に深く感謝申し上げます。
　中枢性嗅覚障害は嗅覚神経回路の異常による嗅覚障害(嗅覚鈍麻、匂いの識別能の低下等)だけでなく、時にQOLの低下やうつ病をまねく他、新型コロナウィルスの後遺症でも注目され社会的な問題となっています。嗅覚神経回路は鼻粘膜の嗅上皮で匂い物質を受容し、一次中枢である嗅球を介して嗅皮質へと情報が伝わり匂いとして認識されます。特に嗅球は匂いの識別や、感度の調節に重要な領域とされており、嗅球神経回路の異常が嗅覚障害発症メカニズムの一つとされています。
　本研究では、マウスに長期的な鼻閉塞処置を行い、中枢性嗅覚障害モデルとしました。
　鼻閉塞による匂い物質の遮断は嗅球に存在するドーパミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素(tyrosine hydroxylase, TH)陽性ニューロの減少をきたし、このニューロンが匂い識別に関与することから嗅覚障害が引き起こされます。しかし、長期鼻閉塞によるTHニューロンの減少は形態学的には知られているものの、その機能的な変化はこれまで明らかにされていませんでした。
　この機能的な変化を調べるために、ホールセルパッチクランプ法を用いてその活動電位の波形の解析をおこないました。その結果、活動電位の幅が長期鼻閉塞群で有意に増加していることが明らかとなりました。THニューロンは、匂い情報を嗅球から嗅皮質に伝える僧帽細胞を抑制するはたらきがあり、この活動電位の変化はTHニューロン/僧帽細胞間のシナプス伝達に何らかの影響を及ぼす可能性が考えられます。今後は長期鼻閉塞モデルでの僧帽細胞の電気生理学的特性の解析も含め、中枢性嗅覚障害における嗅球神経回路ネットワークの解明を行い中枢性嗅覚障害の治療に貢献できればと考えております。
　末筆ながら、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の皆様方に厚く御礼を申し上げますとともに、益々のご発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］