受賞者寄稿文

川崎医科大学大学院　中塚 騰太
（令和5年度　受賞者）

加齢性膀胱機能障害の病態解析および新規バイオマーカーの確立

　この度は、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会から教育研究助成を賜り、関係者および選考委員の皆様方に心より感謝申し上げます。
　下部尿路症状は下部尿路に伴う畜尿症状、排尿症状、排尿後症状に分類されており、世界的に成人での下部尿路症状の有症状率は50%以上あります。下部尿路症状を伴う膀胱機能障害の危険因子は複数ありますが、加齢は最も重要な因子とされています。最近では、酸化ストレスが加齢に伴う膀胱機能障害に関連しているといった報告も見られますが、加齢によりどのような機序で下部尿路症状が生じるかは明確にされていません。
　本研究では加齢モデルマウスを使用し、膀胱機能解析、膀胱形態解析、組織学的解析、酸化ストレス解析を行い、加齢性膀胱機能障害の病態解析を検討いたしました。
　結果、膀胱機能解析では膀胱内圧測定検査により、加齢に伴い最大膀胱容量の低下、最大膀胱内圧の低下が認められ、また排尿筋過活動の増加と排尿後の膀胱内圧の低下不良が認められました。膀胱形態解析、組織学的解析では、加齢に伴い、膀胱移行上皮の菲薄化、間質から筋層に進展する線維化の所見が認められました。酸化ストレス解析では加齢に伴い、血清、膀胱組織の抗酸化力の低下が先行し、酸化ストレスの増加が認められました。免疫染色では抗酸化物質であるSODの低下が先行し、活性酸素種であるROSの増加が認められました。加齢に伴うSOD低下、ROS増加の変化は膀胱上皮と間質から筋層にかけて2層性に局在していました。
　加齢に伴い、膀胱上皮の菲薄化、間質から筋層にかけての線維化が生じ、排尿筋過活動と排尿筋低活動が混在した膀胱機能障害が認められ、酸化ストレス過剰産生の前に抗酸化力の低下が先行しており、膀胱上皮、間質から筋層の2層性に酸化ストレスが過剰産生していました。これらの変化より、抗酸化力の低下は膀胱機能障害の早期に反映されるバイオマーカーとなる可能性が示唆されました。今後、実際に抗酸化力の低下を予防し膀胱機能障害を抑制できるか、研究を継続していきたいと考えております。
　本研究は、川崎医科大学泌尿器科学 上原慎也教授、川崎医科大学附属病院 永井敦院長、川崎医科大学泌尿器科学 大平伸講師、東京電機大学理工学部 刀祢重信先生、ならびに川崎医科大学泌尿器科学教室のご支援の賜物であり、この場をお借りして感謝の意を表します。最後になりましたが、公益財団法人川崎医学・医療福祉学振興会の関係者の皆様方には、この場をお借りして厚く御礼申し上げるとともに、益々の発展を心よりお祈り申し上げます。

［令和6年4月1日掲載］