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川崎医科大学 濵本 真一
(平成30年度 受賞者)
このたびは公益財団法人川崎・医療福祉学振興会教育助成を賜り、誠にありがとうございました。選考委員の先生方、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。助成をいただいたテーマは、鼻副鼻腔炎における嗅覚障害はなぜ生じるのか? 嗅覚機能における伝達物質の役割についてです。
嗅覚障害を主訴として受診するアレルギー性鼻炎患者さんはほとんどいません。鼻症状が注目され、嗅覚障害の自覚に乏しい、もしくはあってもそのうちに匂いも戻るだろうと放置してしまう方も多くいると思います。そこでまず、未治療で医療機関を受診するスギ花粉症患者さんの中で、どのくらいの頻度で嗅覚障害を自覚しているのかについて調査を行いました。今回の検討で、受診した患者さんのうち約30%で嗅覚低下を自覚していることが判明しました。さらに、嗅覚低下例では鼻症状のスコアが有意に高く、鼻症状の重症度と嗅覚低下との相関を認めました。スギ花粉症の症状出現には花粉飛散量が大きく関与します。経年的な調査を追加し、鼻内の局所所見を含めた嗅覚障害の評価法、治療とその効果等についてのさらなる検討を行っていきたいと考えています。
嗅覚障害は鼻中隔彎曲などの鼻腔の形態異常、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などの気導性嗅覚障害(ポリープや鼻汁などで匂い物質が嗅神経に到達できない)、頭部外傷や神経変性疾患、加齢などによる神経性嗅覚障害に分類されます。神経性嗅覚障害はさらに、感冒や薬剤によって嗅神経がダメージを受けるもの、頭部外傷やアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患でより中枢の嗅覚神経回路がダメージを受けるものに分けられます。最近、神経変性疾患と嗅覚障害との関連が注目されています。アルツハイマー病などにおいて、主症状の発現以前もしくは早期に嗅覚障害が出現することが知られており、またパーキンソン病では嗅覚障害を伴う症例において認知障害が発症する可能性が高いことが報告され、嗅覚障害の検出が神経変性疾患の鑑別や早期診断、さらに予後診断に寄与することが期待されています。
謎が多いとされていた感覚の一つである嗅覚の基礎研究は、2004年にアクセル博士とバック博士が匂い識別を可能にする嗅覚受容体の解明でノーベル医学生理学賞を受賞し、引き続き飛躍的に基礎研究が進んでいます。わたしも、大学院でマウスを用いて嗅覚神経回路の解析に携わることができました。詳細は割愛しますが、高次脳中枢からのアセチルコリンニューロン(神経伝達物質:アセチルコリン)の投射が、嗅覚処理にどのようにかかわっているかの構造解析です。
臨床においても、感冒後や頭部外傷後の嗅覚障害患者の症状改善を目指した嗅覚リハビリや漢方薬による効果を認める報告もあり、さらには認知症予防やアンチ・エイジングへの関与も示唆され、今後ますます耳鼻咽喉科領域でも注目されていくと思います。基礎研究で習得した手法と知識で、今回のテーマのより詳細な解析や日々遭遇する臨床的な疑問を少しでも解いていけるよう前進したいと考えています。
[令和元年12月2日掲載]
平成24年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
国際 | 小田桐 早苗 | 川崎医療福祉大学 |
教育 | 原 裕一 | 川崎医科大学 |
教育 | 長洲 一 | 川崎医科大学 |
教育 | 大植 祥弘 | 川崎医科大学 |
教育 | 李 順姫 | 川崎医科大学 |
教育 | 溝手 雄 | 岡山大学大学院 |
教育 | 藤野 雅広 | 川崎医療福祉大学 |
平成23年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 西村 広健 | 川崎医科大学 |
国際 | 清蔭 恵美 | 川崎医科大学 |
教育 | 山内 明 | 川崎医科大学 |
教育 | 俵本 和仁 | 川崎医科大学 |
地域 | 正木 久男 | 川崎医科大学 |
教育 | 青木 淳哉 | 川崎医科大学 |
地域 | 下屋 浩一郎 | 川崎医科大学 |
平成22年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 三好 智子 | 岡山大学病院 |
教育 | 小野 淳一 | 川崎医科大学 |
教育 | 岡本 威明 | 川崎医科大学 |
教育 | 矢作 綾野 | 川崎医科大学 |
教育 | 橋本 美香 | 川崎医療短期大学 |
平成21年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 脇本 敏裕 | 川崎医療福祉大学 |
教育 | 熊谷 直子 | 川崎医科大学 |
教育 | 三上 史哲 | 川崎医療福祉大学 |
教育 | 河井 まりこ | 岡山大学大学院 |
平成20年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 横山 光彦 | 川崎医科大学 |
教育 | 芝﨑 謙作 | 川崎医科大学 |
教育 | 田中 俊昭 | 川崎医科大学附属川崎病院 |
教育 | 平田 あずみ | 岡山大学大学院 |
平成19年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
国際 | 片岡 則之 | 川崎医療福祉大学 |
教育 | 茅野 功 | 川崎医療福祉大学 |
教育 | 前田 恵 | 川崎医科大学 |
教育 | 永坂 岳司 | 岡山大学大学院 |
平成18年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 宮地 禎幸 | 川崎医科大学 |
教育 | 眞部 紀明 | 川崎医科大学 |
教育 | 平林 葉子 | 川崎医科大学大学院 |
教育 | 前島 伸一郎 | 川崎医科大学附属川崎病院 |
平成17年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 渡辺 洋子 | 川崎医科大学 |
教育 | 寳迫 睦美 | 岡山大学大学院 |
教育 | 美藤 純弘 | 岡山大学大学院 |
教育 | 稲垣 幸代 | 岡山大学大学院 |
平成16年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 橋本 謙 | 川崎医科大学 |
国際 | 辻 修平 | 川崎医科大学 |
平成15年度
受賞部門 | 氏名 | 所属 |
教育 | 三浦 孝仁 | 岡山大学 |